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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1241号 判決 1949年2月08日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人八島喜久夫、中村喜一の上告趣意第一點について。

しかし原判決の確定した事実は、被告人は第一審相被告人小沢徳治と共謀の上、原審相被告人渡辺康舟に對し同人が窃取した綿糸の買入を世話すると稱し同人が綿糸を運搬して來るところを、被告人が刑事だと脅かしてそれを取上げることに手筈をきめ、昭和二十一年九月一日右渡辺が綿糸二十梱を家人に運搬させて來るや、被告人は警察官を装うて渡辺に對し「警察の者だがこの綿糸は何處から持ってきたか」と尋ね同人が「火藥廠から持ち出した」と答えると、その氏名年齢職業を問ひ之を紙に書留める風をした上「取調べの必要があるから差出せ」と言ひ、若しこれに應じなければ直ちに警察署へ連行するかも知れないような態度を示して同人を畏怖させ、因って同人をして即時その場で右綿糸二十梱を交付させたと云うのであって、右の如く被告人が渡辺に對しその申入れに應じなければ直ちに警察署へ連行するかも知れないというような態度を示し、渡辺がこれにより畏怖の念を生じ、爲めに綿糸を交付するに至ったものである以上、恐喝罪をもって問擬すべきである。被告人の施用した手段の中に虚僞の部分即ち警察官と稱した部分があっても、その部分も相手方に畏怖の念を生ぜしめる一材料となり、その畏怖の結果として相手方が財物を交付するに至った場合は、詐欺罪ではなく恐喝罪となるのである。然らば原判決の擬律は正當で論旨は理由がない。

同上告趣意第二點について。

本件において被害者渡辺の持っていた綿糸は盗品であるから、渡辺がそれについて正當な權利を有しないことは明らかである。しかし正當の權利を有しない者の所持であっても、その所持は所持として法律上の保護を受けるのであって、例へば窃取した物だからそれを強取しても處罰に値しないとはいえないのである。恐喝罪についても同様であって、賍物を所持する者に對し恐喝の手段を用いてその賍物を交付させた場合には矢張り恐喝罪となるのである。從って原判決が本件を恐喝罪として問擬したのは正當であって、論旨は理由がない。

よって本件上告は理由がないから、刑事訴訟法施行法第二條、舊刑事訴訟法第四四六條により主文の如く判決する。

この判決は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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